ナミダ列車






思わず立ち上がって大きな声を出してしまった。それに気づいたのは、その内容を口に出した数秒後のこと。

注目する乗客と、一瞬だけキョトンとしたおじさんはほどなくして嬉しそうに切なそうに様々な感情をごちゃ混ぜにして破顔する。






「こちらこそ。また、何処かで」


おじさんが東武金崎駅のホームに降り立つと、電車の扉が閉まりきる。

私はどういうわけか食い入るように眺めていた。しばらくして動き出す電車。再び腰を下ろした私は空席になった私の隣を見つめてしまう。





名前、聞いておけばよかった…。

何処で会えるわけでもないというのに、そんなことを考えた。

前に進もうと思っているのなら、きっと穴は埋まる…か。じんわりと温かくなってくる胸の中。なんだか勇気が湧いてきた。




物足りないと思っている"何か"が、もしかしたらこの電車旅の中で見つかるかもしれない。

言ってしまえば私が見ている世界は、物質がただ存在しているだけの、中身のない特色もないただのモノクロなものだ。

なーんとなく生きる。

もぬけの殻のような生活から脱却して、ようやく色がついた世界に足を踏み入れられるのかもしれない。




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