ナミダ列車
ハルナさんが使っている柔軟剤だろうか、その爽やかな香りは意図せずに私の胸をくすぐる。引き寄せられる香りだった。
「例えば、いろはの心臓を食べちゃおうかなー…とか、」
「ええ?」
「…思ってるかも」
「……し、心臓ですか?」
「そ、心臓」
ほっそりとしていてしなやかな指を私の正面に向けてくるハルナさんは、出会った頃よりも意味深で妖艶なように思えた。
「ま、冗談だけど」とすぐに表情を緩めてくれたけれど。
「でも、よくよく考えたらさ。俺はいろはを知っているのに、いろはは俺を知らないわけだ。わるーいことを考えていろはに近寄ってるって考え方も、出来なくはないだろ?」
「またまた…、その私のことを知ってるってのも、どうせつまらないジョークで…」
「ジョークじゃないって言ったら?」
「……え?」
とらえどころのない丸眼鏡をキラリ、と反射させたハルナさんは、前屈みになると自分の膝の上で頬杖をつく。
「君のことは何でも知ってるよ」