ナミダ列車
「うん、最初の頃よりもずっと色がついてる」
「……はい?」
「いろはっていう人間の色」
「……はぁ…って、みゅっ」
しばらく無口になっていたハルナさんは、ニッと口角を上げると、あろうことか身を乗り出して私の頬を摘んで引っ張ってきた。
……ち、近い。
痛い、よりも、なんだ急に、よりも、一番最初に思ったのは羞恥の気持ち。
爽やかな柔軟剤の香りが鼻先を掠め、丸眼鏡と降りている前髪の隙間に確かに存在する綺麗な瞳が私を捉えている。
お子ちゃまを弄んでいるのかと思いきや、眉を下げ、あまりに柔らかく笑うのだから胸が鳴ってしまった。
「……嬉しかった」
「……え?」
なんでこんな見ず知らずの男の人にときめいてしまっているんだ…なんて、未だ嘗てないことに自分でも混乱していたのだけれど、小さく呟くハルナさんに私の意識は集中した。
「俺の絵を…、描いてくれて」
「…あ、あぁ…そのことなら…」
「感動した。本当に…ありがとう」
「そ、それは言い過ぎじゃ…」
ハルナさんは摘んでいた指を解き、そのままの流れで私の頬に優しく添えてきた。
……なんだろう、この目は。
ゆらゆらと黒目を揺らして、私をどんな風に見ているの…?