・喫茶店『こもれび』

女性客に一礼し、カウンター付近に戻る途中。三好さんが私を見ていて「お!目が合った」……と思ったら、違っていた。

三好さんの視線は、私にではなく。
先程の女性客へと注がれていたのだ。


どうしてだろう。
無性に腹が立ち、不安な気持ちでいっぱいになるのは。

その不安感を煽るように、三好さんが私に差し出したのは淹れたてのカフェモカ。
おかしい。
まだ注文を聞いて来ていないというのに、当然のように仕上げられているカフェモカ。

それが、何を意味するのか。
さすがの私にでも分かってしまう。


「あちらのお客様に、お出しして」

「三好さんと、あのお客様とは特別な仲だから?」


お客様の欲している物を聞かなくても、何だか分かるというの?
それくらい、気心知れている仲だってことなの?


カウンターを挟み、ジッと三好さんを見つめたけれど。
「ほら、行って来て」と急かされてしまった。

問い質すことは諦め、仕方なくカフェモカをお客様の元へ運ぶ。


「お待たせいたしました」とテーブルにカップを下ろすと、驚いた顔で私を見上げたお客様に尋ねられてしまった。


「あら? 私、まだ注文はしていなかったと思うけど」
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