・喫茶店『こもれび』


「はい。けど三好さん……いえ。店長から、お客様へカフェモカをお届けするように指示されましたので」

「そうですか。ありがとう」

「違うものをご希望でしたら。こちらはお下げして、改めて承ります」


カフェモカの入ったカップに手を伸ばしかけた私は「いいえ。これでいいです」とお客様から制止され。
同時に、お客様は私の背後に目を向けると、カウンター内に居る三好さんに向かい聞こえる様に声をかけたのだ。


「夏樹、ありがとう。覚えてくれていたのね」


あ、まただ。
また三好さんのことを『夏樹』って呼んだ。


お客様は、三好さんへ向けていた視線を私に戻すなり「夏樹とはね、同級生なの」と口にした。

もしや私、今凄い形相で睨んだりしちゃっていたのかな。
だからわざわざ教えてくれのかな。

敵意むき出しだった?


「まだ何か?」

「あっ、いえ。失礼しました、ごゆっくり」



一礼し、逃げるように客席から遠ざかる。
本当はもっと聞きたいことがあるのに。


三好さんとは、どういう関係なんですか?
二人は同級生だと言っていたけど、何処まで親しかったの?
部活とかサークルとかが一緒だったの?
グループで遊ぶような仲だったの?
個人的に、二人きりで会うような仲だった……の?


聞きたいことの一つも聞けずに、逃げてしまった。
< 73 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop