・喫茶店『こもれび』


なんだか胸が痛い。
三好さんは、来店するお客様に対して優しい。
その対応は誰にでも同じだと、一緒に働いていて分かっている。
けれど、あのお客様にだけは「違う」と感じているのは、きっと女の第六感ってやつが働いたからだ。

『あの人と三好さんを二人きりにしちゃいけない』

そんな気がしてならない。


「さっきから、何に腹を立ててるの?」


トレイに顔を隠して、険しい顔をしていたのだろうか。
三好さんの手が伸びてきて、トレイを奪われてしまった。


「ちょっ、返して下さい!」


右手で持っているトレイを、三好さんの頭上よりも高くあげられてしまい、その場でジャンプしてみても届くわけがない。
いつもだったら、三好さんにからかわれることも嬉しいはずなのに。
今の私は、ムカムカして腹が立った状態が落ち着くことは無くて。
ワザと手が届かない高さにされていることに、無性に腹が立つだけ。


「意地悪しないでっ」


つい強い口調で三好さんに言ってしまった。
言葉がきつかったのか、私の手にトレイを戻した三好さんは不思議そうな顔をしている。
それもそうだ。
昨日までの私なら、同じことをされたとしてもニコニコしながら「じゃれ合っていた」はずだから。
その異変に、三好さんも気づいたのだろうか。
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