副社長のイジワルな溺愛

「室長、こちらの案件で原本差し替えが必要なので、外出してから社に戻ります」
「了解しました」

 次から次へと回付されてくる経理決裁の対応に追われている様子で、室長は私の顔も見ずに了承した。


 外出してから社に戻るのも面倒だし、熱気に満ちた夏の夜の街を歩くのも億劫だ。
 何よりも夜の店に行かなくてはならず、腰が重い。


 携帯ケースの差し込みに挟んだ副社長の名刺を取り出し、もう一度眺める。
 御門 慧……名前からして良家と分かる文字の並び。
 女子社員の人気を集めているのが分からないわけではないけれど、私の好きな人は他にいて――。


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