副社長のイジワルな溺愛
「深里さん」
「っ!! お、お疲れさまです……」
いつの間にか経理室にやってきていた憧れの彼――倉沢さんに声を掛けられた瞬間、心臓がぎゅーっと苦しくなった。
「ごめんね、今いい?」
「はい!」
「忙しい時に悪いんだけど、これも追加させてもらえないかなって」
申し訳なさそうにしながら優しく微笑む倉沢透流(くらさわとおる)さんは、我が社のエンジニアの一人で、構造設計グループにいる“内勤組”だ。
副社長みたいにクールで人を寄せ付けないタイプも魅力的ではあるんだろうけど、私は入社以来ずっと、倉沢さんに片想い中で……。
正統派の整った顔立ちに人懐こい笑顔、そしてソフトな声色の持ち主。
百八十三センチの長身に眼鏡がよく似合う。今日はべっ甲のフレームだ。