副社長のイジワルな溺愛
予想より少なかった経理書類をまとめ、データも見直してPCを閉じた。最終的に経理室長の承認が下りれば、無事完了。証憑関係も私が見た限りでは問題なさそうだ。
経理室で割り振られている業務の中でも、任されているのは大きな仕事ではないように思われがちだけど、こういう小さなことで綻びが出ると、一気に会社の信用を失いかねない。
仕事の大小にかかわらず、日々真剣に取り組んできてよかったなぁ。
「――噂が合ってるんじゃないの?」
「まさか。副社長があの地味女を選ぶなんて信じたくないんだけど」
経理室に戻ろうと席を立ったところで、ドアの向こうで話している秘書の声が聞こえた。
副社長が言っていた通りだ。今、私がここを出て行ったら何を言われるかわからない。経理業務のために出入りしているとしても、よく思わないのが副社長のファンたちだ。
副社長は悪い人じゃないと思うけど、こうなると噂がちゃんと消えるまで接点は持たないほうがいいんだろうな。
でも、倉沢さんへの片想いのためには、ありがたいアドバイスは欲しいし……。
秘書たちがいなくなったのを確認してから、そっと副社長室を出て、預かったカードキーで施錠した。