副社長のイジワルな溺愛

「副社長、何の用だったの?」

 戻ってすぐに香川さんが声をかけてきた。


「経理関係です。秘書さんがまだ慣れてないとかで、間違ってるところがあるか見てきました」
「そうなんだ……副社長も秘書が新任だと大変だね」
「そうだね」

 上手く話を流せたようでホッとする。
 噂になっていて困ってるのを分かってるくせに、どうしてあんなことをしたのかと副社長を咎めたい気分だ。

 でも、副社長室を出る時に見た彼は、なんだか肩を落としているように見えて何も言えなかったけど……。




 午後、副社長室にこっそり向かい、デスクに置かれていた経理書類をデータに収めた。
 主のいない室内は居心地こそ悪くないけれど、他所の家で留守番を頼まれている感じがした。

 せっかくカードキーを返そうと思ったのに、副社長は予定通り外出しているようで会えなかった。
 もし顔を合わせる時間があったら、朝みたいなことはしないでほしいって言いたかったんだけどな。


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