副社長のイジワルな溺愛

「兄に負けないことをひとつでも増やそうと思ったから、母親から料理を教わった。国内の大学を卒業した兄と同じ道ではなく、海外留学をして卒業した。兄よりも早く役職につくために仕事も頑張って成果を出した。……時々空しくもなるけどな」

 皮肉っぽく言う彼が不思議で、私は食事の手を止めて見つめる。
 表情こそ穏やかだけど、その口調は違うから。


「副社長は、社長が嫌いなんですか?」
「嫌いじゃないよ。俺が嫌いなのは会長のほう。いつも兄と俺を比べてばかりいたからね」


 社長の職に就いている彼の兄は、社内でも人望も厚い。
 少なくとも、副社長のように冷徹な雰囲気は出していないし、人当たりも朗らか。社内のムードが明るいのはきっと彼のおかげでもあるだろう。

 会長である彼の父親は威厳があり、この業界の重鎮だ。
 代々続く名家に生まれて厳しく育てられた副社長の思いは、私なんかが察することも難しい。


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