副社長のイジワルな溺愛

 イベントで盛り上がる社員を横目に、ほぼ定時で退社して一度自宅に寄ってから彼のマンションへ向かう。
 こういう週末を過ごすのも、今日で何度目だろう。

 冬に彼が海外から帰ってきてからというもの、時間が許す限り二人で過ごすようになった。


 副社長……慧さん、は。
 私が作る料理をとても好んでくれる。
 それから、大して華のない地味なすっぴんも、メイクをしているよりかわいいと言ってくれた。

 先週末は、経理室の地味子だった瓶底眼鏡の私を変えようとアドバイスしてくれていたけれど、私が魅力を知りたいなんて言わなかったら、別にそのままでもよかったと言われて、さらに驚いた。



「お邪魔しまーす」

 エレベーターを降りて、境の分かりにくい玄関でピンヒールを脱いで並べる。
 スリッパを履いて、長い廊下を進み、過ごし慣れてきたリビングのドアを開けて明かりを点けた。



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