副社長のイジワルな溺愛

 十五分ほどでタクシーを降り、既に賑やかな一帯にやってきた。

 まだ空も明るい十八時半過ぎ。
 徐々に遠くの空は雲の輪郭をくっきりとさせ、夜の到来を予感させる。


 毎年、最も来場客が多いと言われている花火大会には、開場時間前から人が溢れていたようで、屋台が並ぶ道は人込みで歩くのも大変そうだ。


「のんびり行こう」
「はい」

 慧さんは何も言わずに手を繋いでくれて、私を守るように後ろを歩いている。

 だけど、行き交う女性たちが彼を見るなり足を止め、頬を染めて見惚れている視線が嫌でも分かって、妙に独占欲が湧いてしまった。


 この夏、叶えてみたかったことを次々に思い出す。
 花火大会デートで手を繋ぎ、人混みで守ってもらいながら楽しく話して、彼の浴衣姿に見惚れて……。


「ビール買っていこう。あと何か食べるもの」
「何を食べたいですか? ……っ!!」
「大丈夫?」

 振り返って話していたら、逆行してきた人にぶつかられてしまって、すかさず守ってくれた彼に私は頷いた。


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