副社長のイジワルな溺愛
副社長は銀座の街を歩き慣れているのだろう。私みたいに周りの看板を見たり、携帯で地図を確認したりせず、目的としている店の方へ向かっているようだ。
ほどなくすると、いかにも和食店といった土壁の店舗が見えてきた。入口には私でも知っている超が付くほど有名な店名が照明に浮かび上がっていて、かなり気が引ける。
「いらっしゃいませ」
引き戸を開けると、出迎えた和装の女将が副社長の顔を見ただけで何も聞かずに、奥へと案内をはじめた。
「そんなに緊張しなくても、鮨は食えるから安心しろ」
「……はい」
消え入りそうな声で返事をすると、突然彼が立ち止まった。
「カウンターがいいか? 個室もあるし、どこでも構わないが」
「副社長にお任せいたします」
「そうか、じゃあ個室で」
個室ですか……。副社長と二人きりで個室にこもるなんて、既に息の根を止められたようで苦しくなってきた。
こんなに緊張する外食が、今まであったかと思い返す。