副社長のイジワルな溺愛
「――どうぞ」
返事は、間違いなく副社長の声だ。冷静で抑揚の少ない低い声が、私の緊張を最大にする。
恐る恐るドアを引くと、ガンッと音がして内開きだったと気付いた。
「失礼します」
「ドアを壊す気か」
「失礼いたしました! 経理室の深里と申します」
「用件はなんですか?」
――初めて接するけど、やっぱり怖い。
睨んでるんじゃないと分かっていても、その力のある瞳に見つめられると脚が竦む。
部屋の入口に立ったまま動けずにいると射抜くような眼差しを向けられ、思わずクリアファイルを落としてしまった。
「お忙しいところすみません。あの、この領収書をご確認いただけますか?」
「領収書? そんなものは秘書に聞いてくれ」
「それが、お昼で席を外されていたものですから」
「あぁ……」
だからさっき内線でアポイントがあったのかと、副社長は理解した様子だ。