副社長のイジワルな溺愛
他の誰かに頼みたいところだけど、この作業を任されたのは私。
「ちょっと出てきます」
「はーい」
香川さんに呑気な返事を返され、私はゆっくりと深く鼻から息をついて、席を立った。
今日こそは副社長の秘書に対応してもらおう。代わりに副社長から再押印をもらってくれるだけでいい。とにかく接点をなくしていかないと、噂は消えてくれそうにない。
それに長々と騒がれたら、倉沢さんだってそのうち本当はつき合ってるんじゃないかって、噂の方を信じてしまうかもしれない。
副社長室のある三十四階、秘書室へ直行してドアをノックした。
「副社長の秘書の方はいらっしゃいますか? 経理室の深里です」
「今日から産休に入られています。ご用件はなんでしょうか?」
前にも対応してくれた秘書は、いつになく冷たくて高圧的な態度だ。
どうしてなのかなんて考えなくても、きっと噂のせいだろうと察した。