副社長のイジワルな溺愛

 経理室に戻って、再押印してもらった証憑書類を手に自席に着くと、室長と目が合ってすぐに手招きされた。
 てっきり室長のデスクで話すものとばかり思っていたけれど、経理室に隣接しているミーティングルームにわざわざ場所を変えられてしまった。


「いつも面倒なことをきちんとやり遂げてくれてありがとう」
「こちらこそありがとうございます」
「さっきも、再押印のためだけに副社長室へ行ってきたそうだね」
「はい。割印の陰影が薄かったので念のためですが、七年保存の書類なので」

 私の話を頷きながら朗らかに聞いてくれる室長は、御門建設に入って三十年のベテラン社員だ。この三年は経理室長を務めているけれど、それまでは総務やコンプライアンスなど、多岐に渡る内勤部署をまとめてきた優秀な人。
 かつ、社内では“仏”と呼ばれているほど、心穏やかな人柄だ。


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