副社長のイジワルな溺愛

 経理室長には、丁重にお断り願いたいと申し出て、社を出た。
 時刻は十八時過ぎ。ほぼ定時で離席したけど、帰りにメイクを直した分、社を出るのが遅くなった。

 今日の夕食はどうしようかな。暑いし、素麺でいいか……実家から送られてきた夏野菜があったから、蒸して温野菜にしようかな。
 駅前のロータリーを横目に入口を目指していると、クラクションが鳴って足を止めた。
 路線バスの乗降を待てない後ろの一般車が、痺れを切らしてもう一度クラクションを鳴らし、思わず眉間に皺が寄る。


「深里さん」

 突然名前を呼ばれて辺りに目を配ると、クラクションを鳴らした一般車の二台後方に、副社長が運転している車を見つけて駆け寄った。


「どうされたんですか?」
「君を見つけたから、声をかけただけだ。不思議なことか?」
「いえ……」

 社内の誰かに見られたら、また噂になる。輪をかけて真実味を帯びてしまいそうだ。


「ちょっと話があるから、とりあえず乗りなさい」
「あの、そういうわけには……」
「乗りなさい」

 彼の冷徹な表情に圧されて、右側の助手席のドアを開けた。


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