誰も知らない彼女
首をかしげながら思ったことを由良に聞いてみる。


「え? ドリンク頼んだの?」


「もう、さっき秋帆がドリンクバーを4人ぶん頼んだじゃん! 一緒に行ってなににするか決めよっ!」


ぷくっと頬を膨らませたあと急に笑顔になって、私の腕をグイグイ引っ張ってくる。


どうやら私がぼーっとしているうちに、秋帆が店員さんに注文していたようだ。


グイグイと引っ張る由良の力に勝てるわけもなく、渋々由良についていくことにした。


引っ張られる途中でくるっと磐波さんのほうを見たが、磐波さんは頬杖をつきながら窓のほうを見ていた。


私を引き止める様子はない。


磐波さんが引き止めてくれると期待したけど、的はずれだったみたい。


でも、いいか。


ちょうど由良に話したいことがあるし。


ドリンクバーの前までやってきたところで、さっそく話しかける。


「あのさ、由良……」


「んー? なに?」


グラスに氷を入れる、上機嫌の由良。


よほど嬉しいことでもあったのだろうか。


「今日って学校じゃなかった? なんで昼になってここに……」


違うグラスを手に取って冷水を入れながら聞くと、途端に由良の表情に陰りが見えた。


嬉しいことじゃなくて、逆に悲しいことがあったんだ。


氷を掴んだトングを握っている手がピタリと止まってなにも言わない。
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