誰も知らない彼女
トイレに入ってさっそく、由良がメイクを直しはじめた。


さすがにメイクの邪魔をするわけにはいかないので、黙って立つことしかできない。


数分かけて由良のメイクが終わったところで、同じことを尋ねてみる。


「由良、どうしてここに来たの?」


化粧ポーチをなかなかしまえないでいるけど、私の声は聞こえているようだ。


私が聞いた瞬間、体を震わせはじめていたから。


だけど私が尋ねて数十秒後、ようやく由良が口を開けた。


「じつは……昼休み終わったときに担任の先生が教室に来て、突然『全校生徒は一斉下校してください』って言ってきたの。なんなのと思って先生になにがあったか聞いてみたの。そしたら『学校の裏側にある雑木林に死体が見つかった』って。さらにこの街に住んでるふたりの男の人が行方不明になったっていう情報が来たから帰れって言われたのよ」


なるほど。


由良と秋帆がここに来た理由はわかった。


言いたいこともよくわかった。


殺人事件が起こって、殺人犯からいち早く命を守るために家に帰れということだろう。


私は磐波さんに呼ばれたから学校を抜けだしたから先生たちに怒られると思ったけど、呼ばれても呼ばれてなくてもここに来て正解だったかもしれない。


と、ここであることに気づいた。


由良の『この街に住んでるふたりの男の人が行方不明になった』という言葉が頭の中で何度も再生される。


磐波さんだけでなく、学校の先生たちにもその情報が伝わったようだ。
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