誰も知らない彼女
と、ここで気づいた。


もしかしたら由良の好きな人は死んだ人か、それとも行方不明になったふたりのどっちかなのかもしれない。


由良はそう思っている。


それが当てはまっていたら、つじつまが合う。


由良が何度かけてもまったく出ないのはどこかに姿を消したという可能性がある。


でも、あくまでも可能性があるというだけだ。


まだその3人のうちのひとりだと決まったわけではないのだから。


今考えていることはすべて想像であってほしい。


「大丈夫だよ、由良。その好きな人が死んだ人か行方不明になった人だって決まったわけじゃないよ」


優しい口調で由良を落ち着かせようとするが、由良が涙目でギロッとこちらを睨みつけた。


由良の鋭い視線にあとずさりをしそうになる。


だけど、私は由良の鋭い視線を真正面からしっかりと受け止める。


「……今は電話に出てくれなくても、きっといつかは出てくれる。そう信じてればその人は絶対に由良のもとに来てくれるよ」


真っすぐに、はっきりとそう言う。


しかし、私の言葉で心の我慢が限界に達したのか、ついに由良が怒りだした。


「本当に……本当にそう思ってんの⁉︎ 抹里は誰かを好きになったことないから私の気持ちがわかんないんだよ! 私の好きな人のこと、なにも知らないくせに!」


ここがトイレであることをすっかり忘れているかのような怒鳴り声だ。
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