誰も知らない彼女
大事な存在をひとりも失いたくないというのはわがままかもしれないけど、本当に心の底から思っていることなのだ。


そう考えたとき、ふと若葉の姿が脳裏でよみがえってきた。


最後に若葉を見たのはいつだろう。


合コン以来、プライベートで会うことはなくなったから、今は学校に行かなければ会えない。


そんな若葉は、私にとってどんな存在だろうか。


特別仲がいいわけでもないし、かといって敵対しているわけでもない。


ただのクラスメイトなのかな。


心の中でそう結論づけてもピンとこない。


若葉がいじめられているのを見て手を差しだそうとしたこともあり、すがりついてきた若葉に怒声を浴びせたこともあった。


そう考えたら、若葉はただのクラスメイトではない気がする。


もし、若葉が自分にとってどんな存在かと聞かれたら、私ははっきりとは答えられないだろう。


なんて考えていると、いっちゃんの目から大量の涙がポタポタとあふれた。


その涙はいっちゃんの頬をつたい、やがてアスファルトに落ちて不ぞろいな水玉模様を作る。


再び泣きはじめたいっちゃんにギョッと目を丸くし、慌てていっちゃんのもとに駆け寄る。


「わ、わわっ。どうしたの、いっちゃん! もしかして私、なにか悪いこと言っちゃった?」


「ううん、そうじゃないの」


ブンブンと首を左右に振り、涙を袖でぬぐういっちゃん。
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