誰も知らない彼女
いつまでも私に相談しないなんて、約束した意味がなくなってしまう。


私の目に映る由良は、もうあのときの由良とはまったくの別人だ。同一人物とは思えない。


そんな由良の姿に恐怖を覚え、前に向き直るが、すぐに秋帆が足を止めたので私もつられてピタッと止まる。


着いたのは西側の階段の踊り場だった。


校舎裏よりは使われるけど、教室に行くにはあまりに遠まわりなので、生徒たちはほとんど使わない。


サボる場所としてはなかなかいいかもしれないが、先生たちが資料を取りにいくために使うのでバレてしまいそうだ。


踊り場の中央に飾られている鏡に自分の姿が映ったと同時に、私の腕から秋帆の手が離された。


そのときに秋帆の顔も鏡で見えたけど、まだ顔色が悪く、今にも倒れてしまいそうなくらい頬がこけている。


数日前のいっちゃんとまったく同じ表情。


秋帆になにかあったに違いない。


嫌な予感だけど、もしそうだとしたらつじつまが合うはず。


言わなくても大丈夫だと思ったが、言わないと気が済まないというめんどくさい性格を振り払うことができず、つい秋帆に尋ねてしまった。


「……秋帆」


「なに?」


「朝から顔色悪いけど……大丈夫? もしかしてなにかあった? 話したいなら聞くよ?」
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