誰も知らない彼女
秋帆の目がとてつもなく怖いからだろうか、それとも別のなにかがあるのだろうか。


私がなぜ心にグサッと深くダメージを負ったのかわからないが、秋帆の目が死んだ魚のような目なのはたしかだ。


そのことを、私を見つめていたネネもようやく気づいたらしい。


顔をそっとあげた瞬間にネネとパチッと目があったので、たぶんそのときに私の気持ちが伝わったんだろう。


以心伝心というわけではないけど、若葉が暴れた授業で感じた気持ちは嘘ではなかった。


とりあえず私とネネは秋帆の言うとおり、保健室には連れていかず踊り場で秋帆の次の言葉を待つことにする。


しばらくして再び鏡に目を向けたとき、鏡越しの秋帆と目が合い、秋帆が口を開けた。


「やっと落ち着いた気がするわ。抹里にネネ、私の話聞いてくれない?」


私の姿をとらえて離さない秋帆の目はまだうつろな目だが、瞳の奥に鋭い光が見えたような気がした。


こういう表情をしているときの秋帆はいったいなにを考えているのだろう。


話をしたい。


そのことしか私には伝わってこない。


なにを考えてるのか推測する前に、秋帆の言葉が踊り場に響きだす。


「じつは……昨日の夜から彼氏の行方がわからなくなってるの」


行方がわからなくなった……?


誰が? 秋帆の彼氏が?


どうして?
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