誰も知らない彼女
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6限の体育の授業がはじまる数分前。
私がいつものように体育館でボーッとしていると、隅のほうにある小さいドアから体操着姿の若葉が入ってきた。
まだこの学校の体操着を再購入していないのか、いまだに別の体操着を着ている。
そんな若葉の姿を見て、ジャージ姿の由良が私の隣でクスクスと笑った。
「バカねぇ、朝丘。体操着がないなら誰かに借りればいいのに。あっ、無理か。バカな朝丘がそんなことできるわけないよね。私ったら、変なこと考えてたわ」
目が笑っていない。
朝に見た秋帆の目よりも恐怖を覚える。
顔が徐々に青ざめていくのを感じながら、ゆっくりと由良から離れた。
「由良、怖いよ……」
完全に離れたあと、そうつぶやいた。
それほど大きな声ではなかったのか、由良以外の全員には聞こえなかったらしく、ひと安心する。
由良から数メートル離れた場所にいる秋帆たち3人のもとへ行こうとすると、3人がこちらに歩み寄ってきた。
「抹里。今日の準備運動とバドミントンのペア、私と組まない?」
「えっ?」
こちらに近寄ってくるなり、秋帆が青ざめた顔でコソッとささやいた。
まさか秋帆が私にペアになってくれないかと誘われるとは思っていなくて、飛び出るくらいに目を見開いた。
「……そんなにびっくりすること?」
「あっ、いや……違うよ! 嬉しびっくりというか、なんていうか……」