誰も知らない彼女
私がびっくりしていることに気づいて眉間にシワを寄せる秋帆が怖くて、慌てて言葉をにごした。


もし私が秋帆の言葉に素直にうなずいていたら、秋帆の機嫌を悪くするところだった。


危ない危ない。


両手を顔の前で振ってごまかす私を見て、安心したらしい秋帆が私の肩に腕をまわした。


「ならよかった。抹里が私に恐怖を抱いてるのかと思ってたけど、安心したわ。私たち、ちょうど4人だし、ペアが確実にできるわよね。今の由良と組んだらどうなることやら」


たしかに、この場にいるのは私を含めて4人だ。


私、秋帆、ネネ、える。


前みたいに6人でいたい気持ちもあるけど、いっちゃんはいないし、由良は怖くて近づけない。


なら、一番の方法は秋帆とペアを組むしかない。


チラッと由良と若葉のほうに視線を向けてみる。


由良はひとりでなにかに対して笑ったまま。


若葉は誰とも話そうとせず、ひとりでオロオロしている。


こうして見ていると、ある意味、ふたりはどこか似ているような気がした。


ひとりの世界に閉じこもっている由良と、いじめられるのを恐れて隅っこに座っている若葉。


笑っている由良と怯えている若葉。


表情は対照的なのに、ふたりが同じ空気に包まれているように感じた。


チラ見するつもりが、なぜかふたりのそのあとの行動が気になって、思わずガン見してしまう。


このあとどんな行動を見せるんだろうというわくわく感と余計にひとりになってしまうのではないかという不安が複雑に入り混じっているからだ。
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