誰も知らない彼女
このままふたりを放っておけば自分に被害がおよばないはずなのに、ふたりから目がそらせなくなる。


だけど性格のせいで、ふたりを放っておくことができない。


自分のめんどくさい性格に再び呆れを覚えながらため息をついていると、由良がこちらに気づいて不敵な笑みを浮かべた。


三日月のように上がった口角が妙に不気味で、取り憑く幽霊よりも怖い。


私が恐怖でおののいている間に、由良が早足でこちらまでやってきてしまった。


私との距離を残り1メートルまで詰めた瞬間、グイッと私の腕を掴んできた。


「……っ!」


痛い!


痛いのは由良の力もあるかもしれないけど、一番は長くとがった爪が皮膚に食い込んでいるのが原因だろう。


今は寒いから上下ともに長袖のジャージだけど、そんなことなどおかまいなしに強く掴む由良。


あまりの痛みに目をつぶる私を見て、肩に腕をまわしていた秋帆がギョッと目を見開く。


「抹里……!」


秋帆だけでなく、ネネとえるも叫んだ。


「抹里ちゃん⁉︎」


「え、榎本さん……!」


3人が大きな声で叫んだことで、体育館内が一気に騒々しくなる。


なんとか痛みに耐えてそっと目を開ける。


そこではっとした。


隅っこのほうで怯えていたはずの若葉が、数メートル先の場所で由良と同じような表情を見せていたのだ。
< 186 / 404 >

この作品をシェア

pagetop