誰も知らない彼女
「……あぁ、あれ? おかしいよ。だって、私の好きな人は行方不明のままだし、いっちーの彼氏は死んだし、秋帆の彼氏まで行方不明。こんなの笑うしかないでしょ。笑う以外にどうしろっていうの?」


嘘だ。


こんなときに笑うなんて、どうかしてる。


しかも、人が死んだり行方不明になったりしているときに。


私の腕を強く掴んだまま微笑む由良に、秋帆はなにかを思い出したかのように目を見開いた。


「あっ! あんた……もしかして私の彼氏のこと、なにか知ってんじゃないの? もしくはあんたが行方不明にさせたとか」


おそるおそると問いかける秋帆の言葉が、やけに大きく響いた。


周りにいて、体育館内にいる全員も驚きをあらわにした。


「連続殺人事件の犯人、八戸さんなの?」


「嘘だ……」


「でも、それなら納得がいく」


「そうだね。犯人が八戸さんなら、あんなに笑ってても不思議じゃないよ」


「八戸さんがさっきからずっと不気味に笑ってたから怖かったけど……そういうことだったのか」


「そうよ。絶対八戸さんが犯人だよ!」


「高島さんがこんな表情見せることなんてないし、八戸さんがわざとそうしたのかもしれないね」


「いやいや、『かもしれない』じゃなくて、絶対にそうでしょ!」


どうやらここにいる全員も、由良に対して恐怖や侮辱などの感情を持っていたらしい。
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