誰も知らない彼女
言えないよ。


嫌いじゃないと言えるわけがない。


もし私が『彼女のこと、私は嫌いじゃないよ』と言ったときの、由良の反応を見るのが怖いから。


「……むー。朝丘若葉が学年トップなのは正直納得いかないけど、あの朝丘若葉の次に名前が載ってたのが抹里(まつり)でよかったよ〜」


私の肩を叩きながら嬉しそうな顔をする由良。


「いや、私は朝丘さんより頭がよくないから……」


「なに言ってんのよ。朝丘若葉よりもずっと抹里のほうが頭いいに決まってるよ。あの朝丘若葉、性格めっちゃ悪そうだし」


頭がいいことと性格が悪いように見えることがつながるとは思えない。


由良は、若葉のことを性悪だと思っているのだろうか。


私はとりわけ頭がいいわけではないし、そもそも若葉に勝てる自信がない。


頭だけではなく、顔や運動神経でも勝てる気がしない。


自分がどこにでもいる、普通の女子高生だとしか思えないんだ。


だけど成績が若葉と同じくらいであることから、若葉を嫌うクラスメイトに羨望の眼差しを向けられている。


由良もそのひとり。
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