誰も知らない彼女
また悪口を聞かれるとめんどくさいことになるので、小声で秋帆に注意した。


はっと我に返るように「そっか、そうだよね」と手を叩く秋帆。


「はぁ、すごいびっくりした。まさかあそこにいた女子が高島さんと八戸さんに突っかかってくるなんて思わなかったから……」


若葉サイドの女子との会話に参加しなかった女子のひとりが胸に手を当てながら息を吐いた。


私もちょっとびっくりした。


若葉サイドの女子が突っかかってくるだろうなとは思ったけど。


「それにしてもさ、秋帆カッコよかったよ〜。抹里ちゃんをかばってさ。秋帆って抹里ちゃんの王子様みたいじゃん」


秋帆のうしろにいたもうひとりの女子がおかしそうに笑う。


その言葉に顔を赤くしながら秋帆が「え、私が抹里の王子様? 私、女だよ?」と言って苦笑いを浮かべる。


「でも残念ながら、私にはもう素敵な彼氏がいるんです〜」


「あ〜、そうだった〜。しまった〜」


ふたりの会話に耳をかたむける。


なんかすごく楽しそうだな。


今まで若葉サイドの女子と言い合っていたのが嘘のようだ。
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