誰も知らない彼女
若葉がひとりで目立つところにいるからか、すぐに先生に見つかってしまう。


「あれ? あそこにいる子も授業を受けるのかな?」


手でひさしを作って向こうを見る先生だが、先生の問いかけに答える生徒は誰もいなかった。


気まずそうにそっと目をそらしたり、バレないようにクスクスと笑ったり。


しかし、なんとも言えない微妙な空気を破ったのは、意外にも秋帆だった。


「先生ー、ステージのところにいるのは朝丘さんだと思いまーす!」


手をあげて笑顔で答える秋帆に目を丸くする。


めずらしい。


若葉のことが嫌いなはずの秋帆が、笑顔で若葉の存在を先生に明かすなんて。


でも今日の秋帆は相当機嫌がいいらしい。


そう言いたい気分なのかもしれない。


「え、そうなの? 朝丘さん、見学でもいいからとりあえずこっちに来てー」


少しだけイライラを募らせたような口調で向こうにいる若葉をこちらに呼ぶ先生。


若葉はびくっと肩を震わせたが、先生に呼ばれたせいか走りだした。


なんで若葉をこちらに呼ぶんだ。


そんなことしたら体育館全体が最悪の空気になってしまうじゃん。
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