誰も知らない彼女
他の子たちは口を開けようとしないが、表情だけでそう言っているように思えた。


秋帆以外のここにいる全員が嫌そうな顔をしながらこちらに来る若葉を待っている。


でも、なんだか変な気がする。


違和感がなんとなく感じたが、気のせいだと思い直した。


まぁ、いいか。


そう思ったと同時に若葉が先生のところにやってきた。


先生は彼女を避けたりせず、落ち着いた声音で若葉に指示した。


「朝丘さん。今日の授業を見学するなら、先生のお手伝いをしてくれる?」


「わかりました……」


少しだけ考えたあと、若葉は消え入りそうな声で答えた。


これもあまり考えなくてもいいだろう。


心の中でそうつぶやく私だが、周りの女子はコソコソと話しはじめた。


「なんで朝丘さんだけ手伝えるの?」


「私のときなんかは雑用だったよ? おかしくない? 差別だよね」


「差別っていうかさ、あの女は勉強しかとりえがないから先生たちには優遇されてんじゃない?」


「でもその勉強も結局はコネだもんねー」


「あはは、それは言えてる」


「でしょ? しょせんはバカなのよ朝丘は」
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