あなたしか見えないわけじゃない
土曜日は朝から何軒も不動産屋を回った。

「何人でお住まいですか」と聞かれるならまだいい。
「奥さまとお二人でお住まいですね」と聞かれると「いいえ、違います」と即答で彼が否定するのだ。

その言葉に少し傷つく自分がいる。
一緒に暮らそうなんて言われたこともましてや結婚の話なんて出てきたこともないんだから、当たり前なんだけど。
私も今年は27才。
気にしない年頃ではない。

彼が気に入る部屋はなかなか見つからない。
しかし、時刻は14時を過ぎていた。

「私、そろそろ仕事の準備もあるし、横浜に戻らなきゃ」

「あ、じゃ、車は置いてってよ。後で駐車場に戻しておくから。藤野は電車で帰って」

「え?」

「だってもう少し探したいんだよ」

「……わかった。じゃ、先に行くね」

「ああ、そこを真っ直ぐ行けば駅があるから。じゃ気をつけて」

そう言うと私を見送りもせず、次の不動産屋に向かってしまった。

いや、今は落ち込んでるヒマはない。
ここはいったいどこだ。
どうやって橫浜に帰るんだ?
とにかく駅だと言われた方向に向かい、スマホのアプリで乗り換え案内を見ながらキップを買う。

夜勤に間に合わないと困るんだから。
知らない土地に置き去りにされてとにかく悲しかった。
スマホがあってよかった。

これから先、私の精神状態はどこに向かっていくのだろう。
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