あずゆづ。

突然目の前まで接近した黒の王子のお顔が、くすっといたずらに微笑んだ。

ゆうちゃんの黒い瞳には、しっかりと私の間抜け面が映っている。


「ゆづ、悪いけど梓ちゃん借りるよ」

「え、え?!」


声をかけられたゆづくんは、はっとしたように慌てて立ち上がる。


「ああ!?」


私の腕をつかむゆうちゃんの手の力は弱まるどころかどんどん強くなっていく。

何が起こったのか未だによくわからない私はぐるぐると目が回って。


「あ、え、ちょ……ゆうちゃん!?」


しかしゆうちゃんは、そんな状態の私の腕をつかんだまま、急に走り出した。


「ああ!? 待ててめえ!!!」


後ろから聞こえるゆづくんの怒号もどんどん遠くなる。

もつれそうになる足を一生懸命動かし、引っ張られるままに走った私。

そうして着いた先は、校舎裏だった。

人気は、ない。


うおおお、ダメだまだ頭がぐるぐるするよおお……っ!!



「ゆ、ゆうちゃ……?」



ゼハーゼハーと荒い息のまま、ゆうちゃんを見る。

視界に映ったゆうちゃんは、少し申し訳なさそうにまた笑った。


「ごめんね梓ちゃん」

「はあ、はあ…………え……?」


今の、聞き間違い?

ゆうちゃんが私に……謝った。

え、なに。
どういうこと?



「あんまりいい雰囲気になってほしくなくて、さらってきちゃった」


へへっと。
目を閉じて、くしゃっと笑った黒の王子。

さっきの申し訳なさそうな笑顔とは打って変わって、楽しそうなおかしそうな、いたずらっ子のような、子供みたいな笑顔だ。


「……!?」


って、そうじゃない。そこじゃない。


今の何語!?

英語!?

ゆうちゃん、今、なんと!?

え、どなた様か翻訳して!?


「ごめん、なんかすごい今、妬いてる」

「………っ!?」



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