王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「すまない、怖かったろう」

「ううん、私のことはいいの。ウィルも、無事でよかった」


 優しく強く抱きしめられて、マリーは今度こそ心からの安心を得る。

 温かな腕の中で、遠くからしくしくという泣き声を聴いた。

 ウィルとともに顔を上げると、廊下の隅でハンカチも手にせずに泣くエルノアを見つけた。


「ミケル、エルノアを」

「はい」


 ウィルに支えられながら立ち上がり、エルノアに歩み寄るミケルの背中を見つめる。


「エルノア様、今日のところは……」

「お兄様は……?」


 ウィルとマリーも近づいたところで、ミケルの優しい声に顔を上げたエルノア。

 品良く背筋を伸ばした堂々たる淑女の姿は見る影もなく、その表情は悲痛な涙に濡れていた。

 あまりにの悲愴感にマリーはちくりと胸を痛める。


「王家への謀反とみなされ、少なくとも爵位剥奪は免れないと思われます」

「そんな……」


 エルノアが絶望するようにうなだれるのは、爵位を失うということがどういうことなのかを理解しているからだ。
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