王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 それはまるで、ウィルとマリーの関係を写したかのようだった。

 マリーも、ウィルとは結ばれないのだと悟っても、ここにある気持ちだけは未来永劫に変わらないと思った。

 エルノアを想うライアンもまた、悲恋を抱いていたらしいと聞くと、その彼のことは知らなくてもマリーは心をぎゅっと絞られるように苦しくなった。

 ミケルがエルノアにハンカチを差し出すものの、ライアンのことを思っているのか、エルノアは顔を覆ったまま泣き止む様子はない。


「エルノア、聞いてくれ」


 そこにウィルは静かな声を落とした。


「君の兄が爵位を失えば、君は階級のないただの娘になる。それがどういうことかわかるか?」


 諭すようなウィルの言葉に、エルノアはにわかに静かになる。


「身分差に阻まれることなく、君をオネット侯爵家の花嫁として迎え入れることができる」

「わ、わたくしは、貴方と……」


 涙に濡れた顔を上げるエルノアの口唇は震えていた。
< 197 / 239 >

この作品をシェア

pagetop