王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
*


 今夜、王太子の婚約者が発表されるという噂は、叶うことなく終わった。

 まだマリーの両親の承諾を得ていないからだ。

 最後にウィルが王太子として来賓に感謝の挨拶をするのを、マリーは広間の隅で見守った。

 晩餐会は宴もたけなわに幕を下ろし、マリーに帰宅の馬車が用意されたのは、それから程なくしてからのこと。

 最後の来賓が引き上げてから、王城の前庭に悠然と現れた。

 ここへ来た時のものよりも豪奢さはないものの、厳かで重厚な造りをしている。

 所々に施された金の紋章が、王家の尊厳を表しているようだった。


「足元、気をつけて」


 マリーの手を取り、馬車へ乗り込む踏み台を誘導してくれるウィル。

 扉の中へ身を通すと、大人四人が向かい合っても悠々と座れる広さに驚いた。

 備え付けられていたソファもとても上等な織り込みの生地で、座ってみると柔らかな素材に腰が沈んだ。

 続いて乗り込んでくるウィルは、外から扉を閉められるなり、広い室内でもマリーの隣に腰を下ろしてくる。

 なぜかウィルは向かい側に座るだろうと思っていたマリーは、密室での接近に大きく心拍を乱した。
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