王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 そんなマリーの動揺に気づかないのか、ウィルは澄ました顔でコツコツと窓を指の背で小突く。

 出発の合図だったのだろう。間もなく馬車が動き出した。

 これから、ウィルも一緒にイベール家へ向かう。

 ふたりの結婚を認めてもらうためだ。

 若干の緊張とときめきを鎮めるように背筋を伸ばすと、ウィルがおもむろに、窓に掛けられたカーテンをさっと引いてしまった。

 四隅の天井からの小さなランタンの明かりが、馬車の室内に暖色の光をこもらせる。

 動き出した馬車の揺れは思った以上に小さく、ふわふわと夢心地のように快適だ。

 夢心地なのには、もうひとつの理由がある。

 王城へ出向く時は、世界の終わりを見るかのような絶望を抱えていたのに、王城に着いてからの数時間で目まぐるしく状況が一変した。

 それもこれも、隣に座るウィルがマリーを絶望の淵から救い出してくれたからに他ならない。

 心が求める彼に自然と視線を誘われると、いつからそうしていたのか、サファイアの瞳が真っ直ぐにマリーを見つめていた。
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