王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
*


 生け垣の塀に囲われた屋敷に着くと、馬車の音に気がついたのか、エレンが門を開けに外に出てきた。

 緑のアーチに付けられた鉄格子の門扉が、キィと小鳥のように鳴りながら開かれる。

 マリーの帰宅を待っていたエレンは、出かけて行ったときとは違う馬車を見て首をかしげた。

 御者台から降り立ったミケルが、エレンに対し丁寧に頭を下げる。


「令嬢のご帰宅が遅くなってしまい、申し訳ございません」

「あ、あの……?」


 きょとんとするエレンの前で、踏み台を置いた馬車から先にウィルが顔を出した。


「今晩は。ご無沙汰しております、エレンさん」

「あ、あなた……っ!!」


 ウィルの顔を見るなり、厳しい形相に変わるエレン。

 けれど、最後に会ったときとは様相が変わっている彼に少々困惑しているようだ。

 そんなエレンが見つめる先で、ウィルに手を取られてマリーが出てきた。


「ありがとう、ウィル」

「マリーアンジュお嬢様!?」

「ただいま、エレン」


 あわあわと口唇を震わせるエレンの表情に、不躾にウィルを追い返そうとしたときのことが甦った。
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