王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
*


 エルノアが帰ったのは、夕陽が窓を橙色に染め始めた頃。

 ふたりでエルノアの見送りを終え、部屋に戻ると、ウィルは扉を閉めるなりマリーを背後から強く抱きしめた。


「やっとふたりきりだ……」

「ウ、ウィル……っ」


 きゅっと顎を後ろへ引き上げられ、口唇を合わせられた途端に深い口づけが施された。

 はふっと悩ましげな吐息を漏らすと、ウィルはサファイアの瞳を揺らしてマリーを横抱きにした。

 ウィルの部屋の奥にある天蓋付きの大きなベッド。

 身体を降ろされそうになったマリーは、羞恥に赤く染まった頬を見られたくなくて、ウィルの首にしがみついた。


「マリー」


 そうされると何も出来ないというウィルの呆れた声に、ふるふると首を小さく左右に振った。


「嫌なのか?」

「……そうではなくて……だって昨日もいっぱい……」

「昨日は昨日、今日は今日だろう」

「で、でも、ほらもうすぐ夕食の……」

「少し黙ろう」


 にんまりと目を細めたウィルはマリーをベッドに降ろし、しがみつく細い腕を容易く解く。

 少々強引にベッドに押しつけ、息もできないくらいの口づけをした。
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