王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 とはいえ、部屋でなくとも隙あらばウィルはマリーを人目から隠しては、抱きしめていた。

 彼の執務室にお茶を運べば、しばらくの間部屋から出られなくなるのは当たり前。

 図書室や誰もいない大聖堂でも、ここぞとばかりに引き寄せられ、甘い甘い口づけを交わした。

 挙句、つい今まで目の前で話していたミケルが背を向けた瞬間に口唇を奪われたときには、あまりの羞恥と不躾さに、ウィルの胸元をぽかぽかと殴りつけたものだ。


「ウィル……?」

「うん?」


 マリーが話しかけているのに、ウィルは聞いているのかいないのか、また口を塞いできた。

 何度も何度もこのやり取りを繰り返して、息が乱れた頃にやっと話をさせてもらえる。

 その頃には、話したいことを忘れてしまうこともあるほどだけれど。


「私……少し不安なの」

「何が?」

「こんなにもただひたすらに貴方に愛されるだけの小娘に、……王太子妃が務まるのかしらって」


 こればかりは、マリーが幸せの絶頂を味わっている中で、心に表裏して抱えていたことだ。
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