王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 そもそも、自分は十六になるまで外の世界を見たことがない人間だった。

 無知な小娘を花嫁にしても、王太子の名誉に傷がつくのではないかと不安に思っていたのだ。


「マリーアンジュ」


 軽く啄むように口づけてから、ウィルはマリーを引き起こした。

 寄り添うようにベッドに腰掛けると、もう一度小さな口唇を舐ってからウィルは華奢な肩を抱き寄せた。


「成人祝賀のとき、誰かと話をしただろう」


 ふたりの甘い雰囲気を後引いたまま、ウィルが甘い声で問題を出してくる。

 まだ口唇と胸の火照りは治まらないのに、突然の質問にマリーは困惑する。


「誰かと言われても、わからないわ。大勢の方と挨拶を交わしたもの」

「とても若い国王はいなかった? 三大友好国のひとつ」

「バルト国……?」


 ふと思い出した優美な国王の姿に、薔薇の香りが鼻をかすめた気がした。
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