王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「そう、バルトは数ある友好国の中でも一番贔屓の国だ。そして、彼は知る人ぞ知る薔薇の研究者。君はそれを知っていたね? バルト国王が言っていたそうだよ。初見で薔薇の話をした女性は君が初めてだったと」


 あれは、ただ人形のように言葉を並べただけだ。

 その場しのぎの口上に過ぎなかったのに。
 

「あちらの国については、俺が前に話したことがあった。君はそれを覚えてくれていて、角を立てないどころか大変な好印象を持たれたことを、父がとても喜んでいたよ」


 言いながらまた口唇を重ねられ、ぽかんとしたままサファイアの瞳を見つめた。


「ウィル、私……」

「俺が君に出逢ってからの四年間に教えたこと。その全部が、君の王太子妃として、そして未来の王妃としての大切な教養だ」


 マリーはすぐにはわからなかった。

 ウィルは今までマリーの知らない世界を楽しく面白く話してくれていただけだ。

 教養だなんて堅苦しいようなこと、少しだって感じたことない。
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