王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 親孝行するべき自分の立場と、それにそぐわない心との格差に、顔を上げられない。

 憂鬱さを渦巻く胸を抱えるマリーの頬に、冷たい指の背がそろりと触れてきた。

 ぞくっとするほどの寒気に、手を握られたときよりもさらに不快感が増す。


「私のことは苦手かな?」


 マリーの態度はやはり相手に伝わってしまっていたようで、不躾な自分を反省するものの、彼に対する不快感は消せない。

 それを見抜いているはずのフレイザーは、冷たい掌で構わずマリーの肩をぐいっと引き寄せた。


「……っ!?」


 あまりに冷たい手の感触と、突然不躾に触れてくるフレイザーの態度に、マリーは大きく身体を震わせた。


「あ、あの……っ、フレイザー様……っ」

「大抵の女はこうやって抱き寄せるとしなだれかかってくるものだが、お前は違うのだな」


 喉の奥で不敵に笑うフレイザーから逃れようと身をよじるけれど、小娘ごときが身体つきのしっかりとした男性から逃れられるわけがない。

 異性というものに対する恐怖を初めて物理的に感じた瞬間だった。
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