王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 思い当たったのは、ウィルのこと。

 しかも、まるでその彼が悪いことでもしたかのような言い草に、嫌悪感を抱いた。


「素直な娘だ」


 しまったと思ったときには遅く、どうやら勘の鋭いらしいフレイザーに自分に近しい他人がいることを嗅ぎ取られてしまった。


「両親は知っているのか、その輩のことを」

「何のことかわかりません……」


 消え入りそうな声で、上を向かされたまま視線を逸らす。

 しらばっくれても、フレイザーから疑惑を消すことはできないらしい。


「こんなにむず痒い思いをするのは稀有なことだよ」


 くくと喉で笑うフレイザーは、舐めるようにマリーの輪郭に冷たい指を滑らせる。

 顎にかけられていた手から逃げるように顔を背けても、肩を抱き寄せられたままでは距離を取れなかった。
< 83 / 239 >

この作品をシェア

pagetop