王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「フレイザー様ほどのお方なら、もっとふさわしい爵位の女性がいるのではないでしょうか。
 片田舎の伯爵という中途半端な家柄の娘など娶られても、何の特にも……」

「いいや。私はお前がいいんだ、マリー」


 また耳元でねっとりと囁かれ、背筋がぞくりと震える。


「私の伴侶となるなら、それなりに見映えのする女でなければいけない。あちこち社交の場へと連れて行かねばならないからな。
 その点なら、お前は充分すぎるほどに満たしている」


 自分の容姿が、フレイザーに見合うほどのものなのかはわからない。

 けれど、たったそれだけの条件でわざわざ自分を花嫁にするなんて、あまりに軽薄ではないかとマリーは思う。

 あらためてそこに“心”というものが必要とされていないことを思い知らされ、たまらなく悲しくなった。
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