王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
「爵位を振りかざすだけの高飛車な女などもってのほかだ。そんな女は私の権力と財をまるで自分のもののように扱うだろう。
 しかし、お前のような初心い娘ならそんなことはしないはずだ。ただ忠実に私に従い、ひっそりと隣で微笑んでいればいい」


 凄まじくどす黒い思考が、フレイザーの瞳を彩っているのだと確信する。

 彼にとっては、生涯の伴侶となる女性を人形か何かのお飾りだとしか思っていないのだ。

 こんな人の元へ嫁ぐことになるかもしれないなんて、マリーは初めて自分の生まれた境遇を心底呪った。


 大公爵家へ嫁いだところで、きっと私に輝かしい未来なんてないんだわ……っ。


 フレイザーのお飾りとなるため。実家の繁栄のため。

 自分の心など少しも大切にされないであろうことがたやすく想像でき、フレイザーの暗黒の瞳の中に光のすべてを奪われてしまいそうだ。

 たった一筋の光であった彼のあの優しい微笑みも、『愛している』と言ってくれた言葉とともに、その闇に黒く塗り潰されていくようだった。
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