王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 さっき裏庭に置き去りにしてきた彼のことが、恋しくてたまらない。

 またあのサファイアの瞳で見つめ、優しい声音で愛を囁いてほしい。


 ……ウィル……っ


 彼を想えば想うほどに切なさが募り、光を失くしてしまいそうな瞳に涙が滲んできた。


「自分の境遇を悲観するか」


 目を細めて見つめるフレイザーは、突然マリーをソファに押し倒した。


「っ、な、何をなさ……――っ!?」


 悲鳴に近い声を上げかけたマリーの口を、大きな掌が覆う。

 助けも呼べない上に、さらに手首を掴まれ身体の自由を奪われてしまった。

 欲望に忠実ないやらしい目つきと、自分の非力さでは抗えない状況に、マリーは恐怖し激しく震え出した。


「これでも私はお前を愛でているのだが。この私がお前を欲しいと言っているんだ。光栄なことだと思わないか?」


 陰りながら迫り、マリーの玉のような頬に口唇を押し当ててくる。

 頬に当たる生ぬるい感触が気持ち悪くて、上げられない悲鳴に替えて涙がぽろぽろと溢れてきた。
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