王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 嫌だ、嫌……!

 私の心など、少しも知ろうとしない人に玩具のように扱われるなんて……


「泣くほど嫌か? 私の妻になりたいと言う女はみな、自ら触れてくれと懇願するというのに。
 ますますそそられるよ。お前を私の前にひざまずかせたくなる」


 なんと支配欲の強い男だろうか。

 こんな人の花嫁になるかもしれないなんてあまりに悲しすぎる。

 視界が歪むほどの涙を流すのは、幼少の頃以来かもしれない。

 あの頃のわがままと、今のこの気持ちは同じものなのだろうか。

 自分勝手なのは自分の方なのかと疑ってしまう。

 けれど、せめてこの力任せの支配に感じる恐怖から逃れられないかと、マリーはできる限りに身をよじる。


「勇ましいお嬢様だ。大丈夫さ、今ここでは何もしない」


 ふっと呪縛が解かれ、力を込めていた腕が反動で振れる。

 そばにあったカップに手が当たり、テーブルの上で陶器のぶつかる音が耳に響いた。
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