王太子殿下は無垢な令嬢を甘く奪う
 代わりのお茶を持ってくるというエレンを止め、フレイザーはそろそろ暇すると腰を上げた。

 挨拶のために両親を呼びに行った彼女を見送り、広い部屋はまたふたりきりになった。


「マリーアンジュ」


 呼ばれてもマリーは返事をするどころか、立ち上がろうともしなかった。


「そんなに怯えて、本当に初心い娘だ。まだ男を知らないのだな。あの騎士風情の男には、ずいぶん心を開いているようだったが、奴は別格ということか」


 ウィルのことを言われているのだと、図星に顔を上げるマリー。

 最初から、彼のことを知っていたのだと気づかされた。

 途端にぐっと二の腕を掴まれ無理矢理立たされると、細い腰を乱暴に抱き寄せられる。


「好いているのか? あの男のことを」


 不快な生ぬるい感触から逃れようともがくマリーは、フレイザーの言葉に動きを止めた。
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